C++、Linux、マルチスレッドにおける std::sleep_for(std::chrono::hours::max()) の即時復帰問題
C++のマルチスレッドプログラムで、std::sleep_for(std::chrono::hours::max())
を使用してスレッドを長時間待機させようとした場合、Linux環境で即座に復帰してしまう問題があります。これは、std::chrono::hours::max()
が Linux カーネルの time_t
型で表現できる最大値よりも大きい値であるため発生します。
原因
std::chrono::hours::max()
は、std::chrono::duration<int, std::ratio<3600, 1>>
型の値を表します。これは、3600秒(1時間)を最大値とする整数型です。一方、Linuxカーネルの time_t
型は、32ビットシステムでは2038年1月19日 03:14:07 UTCまでの時間を表現できる範囲を持ちます。
影響
この問題の影響は、主に長時間待機が必要なマルチスレッドプログラムに及びます。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- サーバプログラムが一定間隔でポーリングを行う
- バックグラウンド処理が長時間実行される
- マルチスレッドによるデータ処理
解決策
この問題を解決するには、以下の方法があります。
std::this_thread::sleep_for()
を使用する
std::this_thread::sleep_for()
は、スレッドの現在のスレッドIDに基づいて待機時間を指定する関数です。この関数は、time_t
型よりも大きな値を待機時間に指定することができます。
std::this_thread::sleep_for(std::chrono::hours(10000));
std::condition_variable::wait_for()
を使用する
std::condition_variable::wait_for()
は、条件変数とタイムアウト値に基づいてスレッドを待機させる関数です。この関数は、time_t
型よりも大きな値を待機時間に指定することができます。
std::mutex mtx;
std::condition_variable cv;
std::unique_lock<std::mutex> lck(mtx);
cv.wait_for(lck, std::chrono::hours(10000));
- 独自の待機処理を実装する
上記の2つの方法以外にも、独自の待機処理を実装することで、この問題を解決することができます。例えば、以下のような方法があります。
while
ループとstd::chrono::system_clock::now()
を使用して、指定時間まで待機するepoll
やtimerfd
などのシステムコールを使用して、長時間待機を実現する
#include <iostream>
#include <chrono>
#include <thread>
void thread_function() {
std::cout << "スレッド開始" << std::endl;
// std::sleep_for(std::chrono::hours::max()); // 即時復帰してしまう
std::this_thread::sleep_for(std::chrono::hours(10000)); // 10000時間待機
std::cout << "スレッド終了" << std::endl;
}
int main() {
std::cout << "メインスレッド開始" << std::endl;
std::thread t(thread_function);
t.join();
std::cout << "メインスレッド終了" << std::endl;
return 0;
}
上記のコードは、std::this_thread::sleep_for()
を使用してスレッドを10000時間待機させる例です。
thread_function()
は、スレッド内で実行される関数です。std::this_thread::sleep_for(std::chrono::hours(10000))
: 10000時間待機します。main()
: メインスレッドです。std::thread t(thread_function)
:thread_function()
を実行するスレッドを作成します。t.join()
: スレッドの終了を待機します。
このコードを実行すると、以下のような出力が得られます。
メインスレッド開始
スレッド開始
スレッド終了
メインスレッド終了
他の方法
void thread_function() {
std::cout << "スレッド開始" << std::endl;
auto start_time = std::chrono::system_clock::now();
while (std::chrono::system_clock::now() - start_time < std::chrono::hours(10000)) {
// 1秒間隔で何もしないループ
std::this_thread::sleep_for(std::chrono::seconds(1));
}
std::cout << "スレッド終了" << std::endl;
}
解説
start_time
: 待機開始時刻while
ループ: 現在時刻と待機開始時刻の差が指定時間よりも小さい間、ループを続ける
この方法は、シンプルですが、1秒間隔でループするため、CPUリソースを無駄に消費する可能性があります。
epoll や timerfd などのシステムコールを使用する方法
void thread_function() {
std::cout << "スレッド開始" << std::endl;
int epoll_fd = epoll_create1(0);
struct epoll_event ev;
ev.events = EPOLLIN;
ev.data.fd = timerfd_create(CLOCK_MONOTONIC, TFD_NONBLOCK);
epoll_ctl(epoll_fd, EPOLL_CTL_ADD, ev.data.fd, &ev);
// 10000時間後にタイマーをセット
struct itimerspec ts;
ts.it_interval.tv_sec = 0;
ts.it_interval.tv_nsec = 0;
ts.it_value.tv_sec = 10000 * 3600;
ts.it_value.tv_nsec = 0;
timerfd_settime(ev.data.fd, TFD_TIMER_ABSTIME, &ts, nullptr);
int nfds;
while ((nfds = epoll_wait(epoll_fd, &ev, 1, -1)) > 0) {
// タイマーイベントが発生したらループを抜ける
if (ev.events & EPOLLIN) {
break;
}
}
close(epoll_fd);
close(ev.data.fd);
std::cout << "スレッド終了" << std::endl;
}
epoll_fd
:epoll
インスタンスev
:epoll
イベントtimerfd_fd
:timerfd
インスタンスts
: タイマー設定構造体
この方法は、while
ループを使用する方法よりも効率的に長時間待機を実現することができます。
上記以外にも、アプリケーションの要件に合わせて、独自の待機処理を実装することができます。
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