C++におけるオブジェクトスライシングとは?

2024-07-27

オブジェクトスライシングが起こる理由

オブジェクトスライシングが起こるのは、C++におけるオブジェクトのメモリ配置と関係があります。C++では、オブジェクトはメモリ上に連続した領域に配置されます。基底クラスと派生クラスは、異なるメモリレイアウトを持つ可能性があります。

派生クラスのオブジェクトを基底クラスの変数に代入すると、基底クラスのメモリレイアウトに基づいてオブジェクトの一部のみがコピーされます。残りの部分は切り捨てられ、失われます。

オブジェクトスライシングの例

以下に、オブジェクトスライシングの例を示します。

class Animal {
public:
  virtual void speak() = 0;
};

class Dog : public Animal {
public:
  void speak() override {
    std::cout << "Woof!" << std::endl;
  }
};

int main() {
  Dog* dog = new Dog();
  Animal* animal = dog; // オブジェクトスライシングが発生

  // dog は "Woof!" と出力する
  dog->speak();

  // animal は "Woof!" と出力しない!基底クラスの speak() が呼び出される
  animal->speak();

  delete dog;
  return 0;
}

この例では、Dog クラスは Animal クラスから派生しています。Dog クラスには speak() メソッドが追加されています。

main() 関数では、Dog オブジェクト (dog) を作成し、それを Animal 型のポインタ (animal) に代入します。この代入によって、オブジェクトスライシングが発生します。

dog->speak() を呼び出すと、Dog クラスの speak() メソッドが呼び出され、「Woof!」と出力されます。しかし、animal->speak() を呼び出すと、Animal クラスの speak() メソッドが呼び出され、「Woof!」と出力されません。

これは、animal ポインタが Dog オブジェクトの一部しか指していないためです。animal ポインタは、Animal クラスのメンバー変数のみを指しており、Dog クラスの追加メンバー変数は指していません。

オブジェクトスライシングを防ぐには、以下の方法があります。

  • ポインタではなく、参照を使用する

オブジェクトスライシングは、ポインタを使用する場合にのみ発生します。参照を使用すれば、オブジェクト全体を参照することができ、オブジェクトスライシングを防ぐことができます。

Animal& animal = *dog; // オブジェクトスライシングを防ぐ

animal->speak(); // "Woof!" と出力される
  • 基底クラスのポインタではなく、派生クラスのポインタを使用する

基底クラスのポインタではなく、派生クラスのポインタを使用すれば、派生クラス固有の情報も参照することができます。

Dog* animal = dog; // オブジェクトスライシングを防ぐ

animal->speak(); // "Woof!" と出力される
  • 仮想関数を使用する

基底クラスで仮想関数を実装し、派生クラスでその仮想関数をオーバーライドすれば、オブジェクトスライシングの影響を受けずに派生クラス固有の機能を使用することができます。




#include <iostream>

class Animal {
public:
  virtual void speak() = 0;
};

class Dog : public Animal {
public:
  void speak() override {
    std::cout << "Woof!" << std::endl;
  }
};

class Cat : public Animal {
public:
  void speak() override {
    std::cout << "Meow!" << std::endl;
  }
};

int main() {
  // オブジェクトスライシングの例

  // Dog オブジェクトを作成
  Dog* dog = new Dog();

  // Dog オブジェクトを Animal 型のポインタに代入
  Animal* animal = dog;

  // Animal 型のポインタ経由で speak() を呼び出す
  animal->speak(); // "Woof!" と出力される

  // オブジェクトスライシングを防ぐ例

  // 参照を使用して Dog オブジェクトを参照
  Animal& animal_ref = *dog;

  // 参照経由で speak() を呼び出す
  animal_ref.speak(); // "Woof!" と出力される

  // 派生クラスのポインタを使用して Dog オブジェクトを参照
  Dog* dog_ptr = dynamic_cast<Dog*>(animal);

  // 派生クラスのポインタ経由で speak() を呼び出す
  dog_ptr->speak(); // "Woof!" と出力される

  // Cat オブジェクトを作成
  Cat* cat = new Cat();

  // Cat オブジェクトを Animal 型のポインタに代入
  Animal* animal2 = cat;

  // Animal 型のポインタ経由で speak() を呼び出す
  animal2->speak(); // "Meow!" と出力される

  delete dog;
  delete cat;

  return 0;
}
Woof!
Woof!
Woof!
Meow!



共有ポインタを使用する

std::shared_ptr などの共有ポインタを使用すると、オブジェクトの所有権を複数のポインタで共有することができます。共有ポインタを使用すると、オブジェクトが削除されるまでメモリが解放されないため、オブジェクトスライシングを防ぐことができます。

std::shared_ptr<Dog> dog = std::make_shared<Dog>();
Animal* animal = dog.get();

// ...

dog.reset(); // オブジェクトが削除される

CRTP (Curiously Recurring Template Pattern) を使用する

CRTPは、テンプレートクラスを使用して、基底クラスと派生クラス間で情報を共有するパターンです。CRTPを使用すると、オブジェクトスライシングを防ぐことができます。

template <class T>
class CRTPBase {
protected:
  T* self;

public:
  CRTPBase() {
    self = this;
  }
};

class Animal : public CRTPBase<Animal> {
public:
  virtual void speak() = 0;
};

class Dog : public Animal {
public:
  void speak() override {
    std::cout << "Woof!" << std::endl;
  }
};

int main() {
  Dog* dog = new Dog();
  Animal* animal = dog;

  // ...

  delete dog; // オブジェクトが正しく削除される
}

ユニークポインタを使用する

std::unique_ptr<Dog> dog = std::make_unique<Dog>();
Animal* animal = dog.get();

// ...

dog.reset(); // オブジェクトが削除される

c++ inheritance c++-faq



スマートポインタとは何ですか?いつ使うべきですか? (C++、ポインタ、C++11)

スマートポインタは、C++におけるポインタの安全性を向上させるためのテンプレートクラスです。通常のポインタとは異なり、メモリリークやダングリングポインタの問題を自動的に解決します。メモリリークの防止: スマートポインタは、オブジェクトが不要になったときに自動的にメモリを解放します。これにより、メモリリークを防止することができます。...


C++/Cにおける構造体のsizeofとメンバーの和の関係について

日本語解説C++やC言語において、構造体のsizeofは、その構造体内の各メンバーのsizeofの合計と必ずしも一致しません。これは、構造体のメモリレイアウトやパディングによる影響です。メモリアライメント: 多くのプロセッサは、特定のデータ型を特定のアドレス境界に配置することを要求します。例えば、4バイトの整数型は通常4バイト境界に配置されます。...


C++における基底クラスコンストラクタの呼び出し規則の代替方法

C++において、派生クラスのコンストラクタは、その基底クラスのコンストラクタを必ず呼び出さなければなりません。これは、基底クラスの初期化が派生クラスの初期化に先立つ必要があるためです。明示的な呼び出し:class Derived : public Base { public: Derived() : Base(initial_value) { // 派生クラスの初期化 } }; この場合、Base(initial_value)の部分が、基底クラスのコンストラクタを明示的に呼び出しています。...


C++におけるexplicitキーワードの代替方法

explicitキーワードは、C++においてコンストラクタのオーバーロードを制限するために使用されます。コンストラクタは、クラスのオブジェクトを初期化するための特別なメンバ関数です。コンストラクタをオーバーロードすると、異なる引数リストを持つ複数のコンストラクタを定義することができます。...


C++におけるPOD型以外のデータ型 (日本語)

POD (Plain Old Data) 型 は、C++において、C言語の構造体と互換性のある基本的なデータ型のことです。POD型は、メモリレイアウトが単純であり、C言語のデータ型と直接対応しています。これにより、C++とC言語の間でのデータのやり取りが容易になります。...



c++ inheritance faq

C++におけるキャストの比較: Regular Cast, static_cast, dynamic_cast

C++では、異なるデータ型間で値を変換する操作をキャストと呼びます。キャストには、regular cast、static_cast、dynamic_castの3種類があります。最も単純なキャスト方法です。コンパイル時に型チェックが行われますが、実行時に型安全性が保証されません。


C/C++ ビット操作入門: 単一ビットの設定、クリア、トグルの代替方法

C++とCでは、ビットレベルでの操作を行うことができます。これは、低レベルなシステムプログラミングや、効率的なデータ処理において重要です。ビット演算子& : AND| : OR~ : NOT<< : 左シフト>> : 右シフトビット位置は、通常0から始まり、右から左にインデックスされます。


C++におけるクラスと構造体の使い分け:具体的なコード例

C++では、クラスと構造体はどちらもデータと関数をカプセル化するための手段ですが、その使用目的とデフォルトのアクセス修飾子に違いがあります。デフォルトのアクセス修飾子: private主な用途:オブジェクト指向プログラミング (OOP) における抽象的なデータ型を定義する。データの隠蔽とカプセル化を実現する。継承やポリモーフィズムなどのOOPの概念を活用する。


C++におけるポインタ変数と参照変数の違い

ポインタ変数と参照変数は、どちらも他の変数のメモリアドレスを保持するという意味で似ています。しかし、その使用方法や特性にはいくつかの重要な違いがあります。宣言方法: データ型 *変数名;値: 変数のアドレスを保持する。操作:アドレスの変更が可能。*演算子を使って間接参照が可能。->演算子を使って構造体やクラスのメンバにアクセス可能。


C++のswitch文で変数宣言ができない理由:具体的なコード例と解説

C++では、switch文の内部で変数を宣言することができません。この制限は、C++の構文規則によるものです。switch文は、特定の値と比較して、それに対応する処理を実行する制御構造です。変数を宣言した場合、その変数のスコープがswitch文の内部に限定され、switch文の外部からアクセスできなくなります。これは、switch文の構造と目的と相容れないためです。