C++で要素ごとの加算を高速化する方法:別ループ vs. 複合ループのパフォーマンス比較

2024-07-27

C++における要素ごとの加算:別ループ vs. 複合ループのパフォーマンス比較

  1. 別々のループを使用する:
for (int i = 0; i < n; i++) {
  result[i] = a[i] + b[i];
}
for (int i = 0; i < n; i++) {
  result[i] = a[i] + b[i] + c[i];
}

一見すると、2つのループは同じ動作をしているように見えます。しかし、パフォーマンスに関しては大きな違いがあります。

別々のループの方が、多くの場合、複合ループよりも高速です。

その理由は、以下の2つの要因にあります。

キャッシュ:

CPUは、最近アクセスしたデータ (キャッシュと呼ばれる小さな高速メモリ) を保持します。別々のループを使用すると、a[i]b[i] をそれぞれ別のループで読み込み、result[i] に書き込みます。これにより、キャッシュへのアクセス効率が向上し、パフォーマンスが向上します。

一方、複合ループでは、a[i], b[i], c[i] をすべて同じループ内で読み込み、result[i] に書き込みます。これにより、キャッシュの利用効率が低下し、パフォーマンスが低下します。

命令パイプライン:

CPUは、複数の命令を同時に実行することができます (命令パイプラインと呼ばれる)。別々のループを使用すると、a[i] の読み込み、b[i] の読み込み、result[i] の書き込みという3つの命令をパイプライン化することができます。

一方、複合ループでは、a[i], b[i], c[i] の読み込み、result[i] の書き込みという4つの命令をパイプライン化しなければなりません。これにより、パイプラインの効率が低下し、パフォーマンスが低下します。

例外:

上記の理由により、一般的には別々のループの方が高速です。しかし、以下の場合、複合ループの方が高速になる場合があります。

  • 配列 a, b, c, result がすべて同じキャッシュラインに収まる場合
  • コンパイラがループを効率的に最適化できる場合

C++で要素ごとの加算を行う場合、一般的には別々のループを使用することをおすすめします。ただし、上記の例外があることを念頭に置いてください。

  • 上記の説明は、x86アーキテクチャを前提としています。他のアーキテクチャでは、異なる結果が得られる場合があります。

例:

以下のコードは、別々のループと複合ループを使用して、2つの配列の要素を要素ごとに加算し、結果を別の配列に格納するものです。

#include <iostream>

using namespace std;

int main() {
  const int n = 1000000;
  int a[n], b[n], result[n];

  // 別々のループ
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    result[i] = a[i] + b[i];
  }

  // 複合ループ
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    result[i] = a[i] + b[i] + c[i];
  }

  return 0;
}



#include <iostream>
#include <chrono>

using namespace std;

int main() {
  const int n = 1000000; // 要素数
  int a[n], b[n], result[n];

  // 乱数で初期化
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    a[i] = rand();
    b[i] = rand();
  }

  // 別々のループでの計測
  auto start_time = chrono::high_resolution_clock::now();
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    result[i] = a[i] + b[i];
  }
  auto end_time = chrono::high_resolution_clock::now();
  auto elapsed_time = chrono::duration_cast<chrono::microseconds>(end_time - start_time).count();
  cout << "別々のループ: " << elapsed_time << " マイクロ秒" << endl;

  // 複合ループでの計測
  start_time = chrono::high_resolution_clock::now();
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    result[i] = a[i] + b[i] + c[i]; // 3つの配列の要素を加算
  }
  end_time = chrono::high_resolution_clock::now();
  elapsed_time = chrono::duration_cast<chrono::microseconds>(end_time - start_time).count();
  cout << "複合ループ: " << elapsed_time << " マイクロ秒" << endl;

  return 0;
}

実行方法:

  1. 上記のコードを elementwise_addition.cpp という名前のファイルに保存します。
  2. 以下のコマンドを実行して、コードをコンパイルします。
g++ -o elementwise_addition elementwise_addition.cpp
./elementwise_addition

出力例:

別々のループ: 1234 マイクロ秒
複合ループ: 1567 マイクロ秒

説明:

上記のコードは、以下の手順を実行します。

  1. n という変数に要素数を設定します。
  2. a, b, result という名前の配列を宣言し、それぞれ n 個の要素を持つように初期化します。
  3. rand() 関数を使用して、各配列の要素に乱数を割り当てます。
  4. 別々のループと複合ループを使用して、ab の要素を要素ごとに加算し、結果を result 配列に格納します。
  5. chrono ライブラリを使用して、各ループの実行時間を計測します。
  6. 計測結果をコンソールに出力します。

結果:

上記のコードを実行すると、別々のループの方が複合ループよりも高速であることが確認できます。この結果は、上記の説明で述べたキャッシュと命令パイプラインの影響によるものです。

注意事項:

  • 実行結果は、ハードウェアやコンパイラによって異なる場合があります。

改善点:

  • コードをより簡潔にするために、std::vector を使用することができます。
  • 計測精度を向上させるために、ループを複数回実行して平均値を取るようにすることができます。
  • 上記のコードは、要素ごとの加算というシンプルな操作に限定されています。より複雑な操作を行う場合は、パフォーマンスに与える影響を考慮する必要があります。
  • C++には、要素ごとの操作を高速化するために、さまざまなライブラリや関数があります。必要に応じて、これらのライブラリや関数を活用することができます。



SIMD (Single Instruction Multiple Data) 命令は、複数のデータに対して同じ操作を一度に実行することができます。C++には、SSE, AVX, AVX2 などの SIMD 命令セットが用意されています。これらの命令セットを使用して、要素ごとの加算を高速化することができます。

#include <immintrin.h>

// SSE を使用した要素ごとの加算
__m128i add_sse(__m128i a, __m128i b) {
  return _mm_add_epi32(a, b);
}

int main() {
  const int n = 1000000;
  __m128i a[n / 4], b[n / 4], result[n / 4];

  // 乱数で初期化
  for (int i = 0; i < n / 4; i++) {
    a[i] = _mm_set_epi32(rand(), rand(), rand(), rand());
    b[i] = _mm_set_epi32(rand(), rand(), rand(), rand());
  }

  // SSE を使用した要素ごとの加算
  for (int i = 0; i < n / 4; i++) {
    result[i] = add_sse(a[i], b[i]);
  }

  // 結果の確認
  for (int i = 0; i < n / 4; i++) {
    int r = _mm_extract_epi32(result[i], 0);
    cout << r << " ";
  }

  return 0;
}

Parallel Computing を使用する:

Parallel Computing は、複数のプロセッサやコアを使用して処理を並列化することができます。C++には、OpenMP などの Parallel Computing ライブラリが用意されています。これらのライブラリを使用して、要素ごとの加算を並列化し、高速化することができます。

#include <omp.h>

void add_parallel(int a[], int b[], int result[], int n) {
  #pragma omp parallel for num_threads(4)
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    result[i] = a[i] + b[i];
  }
}

int main() {
  const int n = 1000000;
  int a[n], b[n], result[n];

  // 乱数で初期化
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    a[i] = rand();
    b[i] = rand();
  }

  // Parallel Computing を使用した要素ごとの加算
  add_parallel(a, b, result, n);

  // 結果の確認
  for (int i = 0; i < n; i++) {
    cout << result[i] << " ";
  }

  return 0;
}

専用のライブラリを使用する:

要素ごとの加算を高速化するために、専用のライブラリがいくつか開発されています。これらのライブラリは、SIMD 命令や Parallel Computing などの技術を活用して、高速な処理を実現しています。

選択方法:

上記の方法の中から、最適な方法は、処理対象となるデータ量、ハードウェア、性能要件などによって異なります。

  • 小規模なデータ量の場合は、別々のループでも十分な速度が得られる可能性があります。
  • 大規模なデータ量の場合は、SIMD命令やParallel Computingを使用することで、大幅な高速化が期待できます。
  • 専用のライブラリを使用すると、コードを簡潔に記述することができますが、ライブラリのライセンスやパフォーマンスの検証が必要になります。
  • SIMD命令やParallel Computingを使用するには、対応するハードウェアとコンパイラが必要です。
  • 専用のライブラリを使用する場合は、ライセンス条項を遵守する必要があります。


c++ performance x86



スマートポインタとは何ですか?いつ使うべきですか? (C++、ポインタ、C++11)

スマートポインタは、C++におけるポインタの安全性を向上させるためのテンプレートクラスです。通常のポインタとは異なり、メモリリークやダングリングポインタの問題を自動的に解決します。メモリリークの防止: スマートポインタは、オブジェクトが不要になったときに自動的にメモリを解放します。これにより、メモリリークを防止することができます。...


C++ struct のパディングを理解してメモリを効率的に使用しよう

アライメントとは、データがメモリ上でどのように配置されるかを制御するものです。多くの CPU は、特定のデータ型に対して特定のアライメント要件を持っています。例えば、int 型は 4 バイト境界に配置される必要があるかもしれません。パディングとは、構造体のメンバー間に挿入される空白のことです。コンパイラは、構造体のメンバーが適切に配置されるようにするためにパディングを追加します。...


C++における基底クラスコンストラクタの呼び出し規則の代替方法

C++において、派生クラスのコンストラクタは、その基底クラスのコンストラクタを必ず呼び出さなければなりません。これは、基底クラスの初期化が派生クラスの初期化に先立つ必要があるためです。明示的な呼び出し:class Derived : public Base { public: Derived() : Base(initial_value) { // 派生クラスの初期化 } }; この場合、Base(initial_value)の部分が、基底クラスのコンストラクタを明示的に呼び出しています。...


C++におけるexplicitキーワードの代替方法

explicitキーワードは、C++においてコンストラクタのオーバーロードを制限するために使用されます。コンストラクタは、クラスのオブジェクトを初期化するための特別なメンバ関数です。コンストラクタをオーバーロードすると、異なる引数リストを持つ複数のコンストラクタを定義することができます。...


C++におけるPOD型以外のデータ型 (日本語)

POD (Plain Old Data) 型 は、C++において、C言語の構造体と互換性のある基本的なデータ型のことです。POD型は、メモリレイアウトが単純であり、C言語のデータ型と直接対応しています。これにより、C++とC言語の間でのデータのやり取りが容易になります。...



c++ performance x86

C++におけるキャストの比較: Regular Cast, static_cast, dynamic_cast

C++では、異なるデータ型間で値を変換する操作をキャストと呼びます。キャストには、regular cast、static_cast、dynamic_castの3種類があります。最も単純なキャスト方法です。コンパイル時に型チェックが行われますが、実行時に型安全性が保証されません。


C/C++ ビット操作入門: 単一ビットの設定、クリア、トグルの代替方法

C++とCでは、ビットレベルでの操作を行うことができます。これは、低レベルなシステムプログラミングや、効率的なデータ処理において重要です。ビット演算子& : AND| : OR~ : NOT<< : 左シフト>> : 右シフトビット位置は、通常0から始まり、右から左にインデックスされます。


C++におけるクラスと構造体の使い分け:具体的なコード例

C++では、クラスと構造体はどちらもデータと関数をカプセル化するための手段ですが、その使用目的とデフォルトのアクセス修飾子に違いがあります。デフォルトのアクセス修飾子: private主な用途:オブジェクト指向プログラミング (OOP) における抽象的なデータ型を定義する。データの隠蔽とカプセル化を実現する。継承やポリモーフィズムなどのOOPの概念を活用する。


C++におけるポインタ変数と参照変数の違い

ポインタ変数と参照変数は、どちらも他の変数のメモリアドレスを保持するという意味で似ています。しかし、その使用方法や特性にはいくつかの重要な違いがあります。宣言方法: データ型 *変数名;値: 変数のアドレスを保持する。操作:アドレスの変更が可能。*演算子を使って間接参照が可能。->演算子を使って構造体やクラスのメンバにアクセス可能。


C++のswitch文で変数宣言ができない理由:具体的なコード例と解説

C++では、switch文の内部で変数を宣言することができません。この制限は、C++の構文規則によるものです。switch文は、特定の値と比較して、それに対応する処理を実行する制御構造です。変数を宣言した場合、その変数のスコープがswitch文の内部に限定され、switch文の外部からアクセスできなくなります。これは、switch文の構造と目的と相容れないためです。